刑事確定訴訟記録法第6条に関する意見書
2020.10.21
議長が確認した弁護士の見解に対する齋藤裕弁護士の見解
〇〇弁護士の、関議員らによる議会質問についての見解に関し以下のとおり意見を述べます。
1 確定記録の使途について
刑事確定訴訟記録法6条は、「保管記録又は再審保存記録を閲覧した者は、閲覧により知り得た事項をみだりに用いて、公の秩序若しくは善良の風俗を害し、犯人の改善及び更生を妨げ、又は関係人の名誉若しくは生活の平穏を害する行為をしてはならない」と定める。
条文の文言上、閲覧により知り得た事項を「みだりに用い」、かつ、犯人の改善を妨げる等する行為が禁止されていることが明らかである。よって、「みだりに用い」ていない場合に刑事確定訴訟記録法6条に違反しないことは明らかである。
ここで、「みだりに用いて」とは、「正当な理由がないのに」との意味である(福島至「コンメンタール刑事確定訴訟記録法」144頁。なお、同書は、押切謙徳他「注釈・刑事確定訴訟記録法」を引用しており、かかる解釈は学説・実務において争いのないものである)。
そして、地方議会での質問において知り得た事項を用いることは、まさに「正当な理由」がある場合である。
よって、関議員らにおいて、保管記録を閲覧することで知り得た内容をもとに議会で質問をすることは「みだりに用い」ることには該当しない。
そうであれば、関係人の名誉等を問題とするまでもなく、関議員らの質問が刑事確定訴訟記録法6条に違反するとは言えない。
2 確定記録を引用して犯人の供述や証言と市の見解の食い違いを指摘したとの点
このような行為を違法とすべき法的根拠はないし、〇〇弁護士も許されないと解すべき理由の説明をしていない。
3 「犯人」の立場との関係で許されないとの点
〇〇弁護士は、「犯人は執行猶予とはいえ刑罰も確定し、懲戒処分等の社会的制裁も受け、現在は事実上の謹慎状態にある中で、上記の行為が公の場で行われることはあってはならない。質問において特定の個人名が挙げられていなくても聞き手が当該者を類推できれば上記規程に違反する」と述べたようである。
その趣旨は不明瞭であるが、刑事確定訴訟記録法6条の「関係人の名誉若しくは平穏を害する行為をしてはならない」としているところをとらえているのかもしれない。
しかし、上記したとおり、刑事確定訴訟記録法6条の適用については、その文言からして、「みだりに用い」た場合であることが必要条件である。よって、「みだりに用い」ていない本件において、刑事確定訴訟記録法6条は適用されない。
なお、刑事確定訴訟記録法6条とは別に、名誉棄損の問題となる可能性はある。
しかし、最高裁昭和三七年(オ)第八一五号同四一年六月二三日第一小法廷判決・民集二〇巻五号一一一八頁が述べるように、人の社会的評価を低下させる発言であっても、「その行為が公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るものである場合には、摘示された事実がその重要な部分において真実であることの証明があれば、同行為には違法性がなく、また、真実であることの証明がなくても、行為者がそれを真実と信ずるについて相当の理由があるときは、同行為には故意又は過失がなく、不法行為は成立しない」ものである。
関議員らは、保管記録中の供述調書等をもとに質問をしている。人は虚偽供述をする動機がなければ虚偽供述をしないし、長岡市の談合事件において供述調書の任意性・信用性が争われた形跡もない。そうであれば、供述調書等の記載内容をもとに質問をすることは、少なくとも相当の理由に基づくものと言える。
関議員らは、長岡市における談合の実態解明という公益目的で、談合の実態という公共の利害に関する事項について質問をしたものでもある。
よって、関議員らの行為は、名誉棄損としても違法とされる余地はない。
4 確定記録の性質や価値
〇〇弁護士は、「関議員の質問の場合は文脈からして犯人の供述を引用していることが明らかである。両議員は確定記録の性質や価値に関わる認識を誤っている。確定記録の内容が事実であるとの前提で質問すること自体が失当である」としている。
〇〇弁護士はここで関議員らの質問が違法であることの根拠を述べておらず、単に法律を離れた当不当の話をしているだけである。
いずれにせよ、〇〇弁護士の立論を前提とすると、議会においては行政等が認めた公式見解的な事実に基づいてのみ質問をなしうることとなるが、かかる結論が非常識であることは明らかである。
5 結論
以上より〇〇弁護士の見解は法的根拠を欠き、失当である。
〇〇弁護士の見解をもとに関議員らの質問を妨害等した場合、違法評価されることもありうるものである。
以上